n010 『病院らしくない病院のデザイン』
某市民病院の設計者選定委員会があった。わが国有数の大手設計事務所のプロポーザル案は、内容はそれなりに考えられていたように思うが、医療や看護の運営側としか打ち合わせをしないつもりかというばかりに、市民目線や、アーバンデザインの視点が欠落している。委員のほとんどが運営側だとしても、それでは設計の専門家ではないだろう。いまや、欧米先進事例では、いかに病院が病院らしくないデザインで市民や患者、医者、看護側に気持ちの良い空間を提供するかが大きなポイントである。白い巨塔を表現する時代ではない。社会を見ているのか、それとも従前どおり事業主だけを見ているのか、少し悲しくなったが、今後に期待することにしよう。日曜日は、後期日程入試の査定もあって教授会。その前に、東京から某新聞社の記者が団地の再編についての取材に。再生ではなく、再編と言っているところに僕たちの主張があると説明。1週間後に記事になるとのこと。課題を広く社会に共有化したい。月曜は、東京でデザインレビューについてのワーキング。国交省からの依頼の議論だが、果たしていかに進展するか。
No.28(2000.12.19)『どこをとっても同じ眺めがない』
御坊市営島団地の再生事業は、建築的に言えば公営住宅の建替事業である。新しく出来た建物は、住民によってグリーンハイツと名付けられたが、一街区3期分で、平成12年度の和歌山県ふるさと建築景観賞を受賞した。今週は、別の原稿を予定していたのだが、表彰式でいただいた審査講評に、うれしい言葉があったので、急きょ、これを紹介させていただくことにした。「・・・制服を着て並んだような団地とは正反対の、カジュアルなまちなみが公営住宅で実現した。外から眺めてもらうのものでなく、日々のくらしの中で、その中を通りながらみんなが楽しむ、表情のあるまちなみ景観である。どこをとっても同じ眺めがない。新しい考えが現実の公営住宅で実現した点が大いに評価された。」 わずか58戸の集住環境のなかで、様々な場所をつくりたいと思ったぼくの意図は、まさにこの点にあっただけに、この言葉は本当にうれしい!
No.29(2000.12.25)『週間NEWS』
6月から始めたこのNEWSも、何とか半年間は継続できた。あまり、紹介もしていないのに、いつも見てくださる方もいるようで、とってもうれしいことである。感謝! ご存じのように、これは神戸芸術工科大学の鈴木成文先生の学長日記に源を発する。文字数も同じである。色々考えたが、この量が一番よさそうだった。先生は、昨年1年間の日記をまとめて、本にされている。週間日記だから、7年間続けてやっと同じ厚さの本になる。当面というには長い目標ではある。遠藤剛生さんや鈴木先生に誘われ、神戸芸工大の集合住宅(地)の課題の非常勤講師を3年の予定が5年間もさせていただいた。得るところ大であった。来年からは、三重大と京都造形芸術大学に出向くことになっている。立命館大とあわせて3校になるが、いずれも2ヶ月程度の単課題なので、フレッシュな気持ちにさせられる良さを楽しみたいといったところである。
No.30(2001.01.01)『横に伸びる百貨店』
「大きな通りの両側にズラリと行けども行けども小さな商店が並んでいて、いや、ひしめきあっていて、・・・街全体が何階、何十階もの建物のなかで上に伸びる百貨店ではなくて、長く横につらなって伸びる百貨店になっている・・・「この百貨店にも3世紀があるよ。18世紀、19世紀、20世紀」・・・今のベトナムには3世紀が共存している・・・その隣がインターネットカフェ「21世紀まであるよ」・・・しかし、これからのベトナムはどこに行くのか。一つの未来は、今ホーチミンやハノイで建てられつつある高層、超高層建築のように、近代化の名の下に、横に伸びる百貨店を叩きつぶして、高層、超高層建築にかえてしまう未来だ。しかし、その未来は、3世紀の共存、ひしめきあいを根だやしにする未来だろう。それは、その共存、ひしめきあいが発する活力を殺す未来になる。」ベトナムの話から、神戸の復興計画に意見する小田実だった。