n024 『競馬の魅力』
大学の時に、大阪から東大の大学院受験で私の下宿に泊まっていた友人がいる。試験を終えた日曜日、朝から出かけてくると言って戻ってきた彼の行き先は、後楽園の場外馬券売り場だった。その翌週、僕もそこに行ってみた。そして買ったのが、シュアーウインという馬の単勝。騎手は故中島啓之。名前だけで買ったのだが、見事に勝利した。もう、40年ほど前の話である。当時は学生は馬券が買えなかったのだが、もう時効である。大学院を出て最初に務めた事務所で仲良くなった友人は、家族そろって競馬が好きで家も近かった。オイルショック後で、毎日深夜まで仕事をしていたが、土日の出勤は避けるように言われていた時代だった。結局、その事務所は半年ほどで辞めて、大学院時代にアルバイトをしていた現代計画研究所に戻ることになるのだが、その友人の家に泊まっては家族そろって東京競馬場に通った時期がある。ちなみに東大を受験した友人は見事合格した。その中島啓之の所属が奥平厩舎で、中嶋が死んだあとは、その親戚にあたる当時はまだ若かった横山典弘を応援するようになる。その横山が、騎乗したダービーで2着に敗れたハーツクライの子供で今年のダービーを制したのは記憶に新しい。そのハーツクライは橋口厩舎所属、これまで20頭の名馬をダービーに出走させ、4度のダービー2着を経験していることは名調教師の証なのだが、その橋口師とのコンビでの悲願達成であった。ワンアンドオンリー、唯一無二という名の馬である。その横山が、今週の宝塚記念にゴールドシップで出走する。宝塚記念は、暮れの有馬記念と同様、ファン投票で出走馬が決まるレースで、ゴールドシップは選出第一位の馬である。今回が初めての騎乗になる。「人気の5歳馬ゴールドシップ(父ステイゴールド)は、今回は横山典弘騎手に乗り代わる。連続して栗東での調教に駆けつけているからまったくテン乗りの不安などないと思えるが、しかし、それにしても乗り代わりの多い馬である。G1を7勝もしたテイエムオペラオーや、ディープインパクトを筆頭に、グレード制が敷かれて以降、G1レースを「4勝」以上した馬は全部で25頭もいる。何回も主戦騎手を代えた馬がいないわけではないが、ゴールドシップは内田博幸騎手でG1を4勝(皐月賞、菊花賞、有馬記念、昨13年の宝塚記念)もしたあと、昨年のジャパンCの内田博幸騎手から、有馬記念はムーア騎手、阪神大賞典は岩田騎手、天皇賞(春)はウィリアムズ騎手、そして今回は横山典騎手。4回もつづけて乗り代わりである。新しい騎手が乗ったほうが馬も新鮮な気持ちで走れる、とする見方もあったりするが、ときにはプラスはあっても、実際のレースになるとマイナスの方が多いのは当然である。ウオッカが、四位騎手で日本ダービーを勝ったあと、岩田騎手、武豊騎手、ルメール騎手で勝ち星を伸ばしたが、チェンジしたあとはみんな連続しての騎乗であり、毎回、毎回、違った騎手に依頼したわけではない。ブエナビスタも、安藤勝騎手、横山典騎手、スミヨン騎手、岩田騎手でG1を勝った記録があるが、それも代わったあとは連続して何回も乗っていての記録だった。ゴールドシップが、毎回、毎回、新しい異なる騎手にチェンジしなければならない理由は、間に1戦限りの外人騎手がはさまっていたりするので定かではないが、これはゴールドシップがちょっと難しい馬であるという理由ではないように思える。ベテラン横山典弘騎手は、「日本ダービーまでずっと乗って欲しい」と騎乗依頼されたワンアンドオンリーで見事に大役を果たした。よりチャンスの大きい馬を頼まれても、先約があればそちらに騎乗するのが当然。そういう姿勢をくずさないのが横山典騎手であり、筋の通らない騎乗依頼は良しとしないジョッキーとして知られている。いろんな事情がからんでいるから、ひょっとすればゴールドシップに騎乗するのは宝塚記念だけかもしれないが、ちょっと癖のあるゴールドシップに全能力を発揮させるくらいたやすいことだろう。「置かれないように、気合をつけて先に行ってくれ…」というような、馬場や、相手や、肝心のゴールドシップの気持ちを考慮しないような指示は、さすがに出ないと思われる。ゴールドシップは阪神の芝【4-1-0-0】。今週末の天気はかなり怪しいが、ヤヤ重発表以上に芝の悪かった皐月賞を快勝している。昨年快勝の宝塚記念も2分13秒2もかかったくらいだから、本当は良馬場ではなかった。渋った馬場など平気、むしろ高速決着を好まないゴールドシップに有利だろう。ゴールドシップに横山典弘騎手はテン乗りとしたが、祖母パストラリズム(父プルラリズム)は関東の石栗龍雄厩舎の所属馬だったから、横山典騎手はデビュー戦から乗っている。同馬の2勝はともに横山典騎手である。その母、つまりゴールドシップの3代母トクノエイティー(父トライバルチーフ)もまた石栗龍雄厩舎の馬であり、1980年の札幌の新馬戦を勝ち、12月の中山で寒菊賞を勝ったのは横山典弘騎手の父になる横山富雄騎手だった。」(柏木集保、早稲田大学政治経済学部卒業)
No.70(2001.10.10)『後追いはしたくない』
「今後、青色発光ダイオードに関しては、発光効率を上げる研究などが残されていますが、私はこの分野でやることはすべてやったので、別の全く新しい素材で全く新しい研究をしたいと思っています。人がやっていることを真似したり後追いすることに魅力は感じません。ノーベル賞ですか? いただければ嬉しいと思いますが、あまり気にしてはいません。それよりも学生たちと新しい技術で新しい発明をしてベンチャーを起こしたい。私のいる大学からも物理と化学で二人ノーベル賞受賞者が出ましたが、彼らよりもベンチャーを起こして上場し、何十億も儲けた教授の方が尊敬を集めていますよ。賞というのは人からもらうもの、いわば受け身のものです。ベンチャーは全部自分でやらなくてはならない。能動的なんです。だから賞よりもベンチャーを目指したいんです。」中村修二 何十億も儲けたいとは全く思わないが、後追いはいやだね。
No.71(2001.10.16)『民族紛争』
「「多国籍、多民族が集まっているアメリカでは、宗教がうまく間をとりもっている、と言ってもいい。」我々がアメリカに対して共通して抱いてきた観念は、このように、民族の垣根を越えて人々が等しく幸せをつかむ機会に恵まれている社会というものである。ブッシュはこれを否定したと言える。もっとも、この転換はいまになって急にはじまったわけではない。・・・アメリカのアングロサクソン系は、人口比率で、アフリカン、ラテン系、アジアなどの他の民族に押されて、もはや多数派ではなくなりつつある。自らの優位な間は、多民族の混合を誇っていたが、そうはいかなくなった。国の内外で主導権を堅固にする必要がある。今回の事件は、アラブ系を筆頭とする他民族を圧倒する「力の誇示」に踏み切るには、絶好のチャンスに見えるのではないか。・・・」<ブッシュが選択した「民族紛争」の現在>と題された、枝川公一の見解。
No.72(2001.10.23)『凡事徹底』
シングルモルトの聖地ともいわれるスコットランドのアイラ島、スモーキーで潮の香りのする個性の強いアイラモルトに、どうやら僕も、はまってしまったようだ。淡路島ぐらいの大きさで、7つの蒸留所と一つの製麦工場を持つ、政界でも珍しいウイスキー島が、アアイラ島だ。「いまは若い。長い間仕事をしていると飽きることもあるだろう。でもな、しっかりとした仕事をしていくためには疑問を持っちゃいかん。ひたすら毎日の仕事を徹底してやることだ。つづけていくことで、何かがわかってきたり、新しい発見だってあるんだ」ボウモア蒸留所の元クーパー(樽職人)のデビッド・ベルは、日本から訪れた若いバーテンダーに、そう言ったそうである。「今後はどうしたいんだ」「カクテルの世界チャンピオンになりたい」「単調な毎日でも、徹底してつづけていたら、チャンピオンにだってなれるさ」若者は、本当にチャンピオンになった。